飯山三十六景 ~クモの巣の的~ 

 

 僕のねえちゃんは弓道の有段者だ。今日初めて道場へ見学に行った。

 黒光りする板張りの古いけいこ場、そこにはいつもとまるで違う顔のねえちゃんが、黒いはかまに白い胴着でスクッと立っていた。30メートルほど先には、やはり白と黒の的。

 「スパン」と矢が当たる乾いた音以外は無音だ。柔道、剣道・・・「道」とつくものはいくつかあるが、こんなに静かな道があることに気付かされ、僕は不思議な気がした。

 ねえちゃんが狙う的の中心にあるのは敵なのか自分自身なのか。帰りがけにそのことを尋ねてみると、「無の心で矢を放つのよ」とねえちゃんは答えた。

 家に帰ると僕は、自分で竹を削って弓矢を作り外に出た。ちょうどクモの巣が目に入ったので、ねえちゃんと同じ顔をまねて巣の中心を狙った。

 矢を放つ瞬間、どこかに身をひそめているクモの迷惑そうな顔が、チラッと浮かんだ。「無の心」というのは難しそうだ。


 クモはハンター

 道具は自前のかすみ網

 ねらう羽虫をじっと待つ

 無心になってじっと待つ

     

写生ポイント(矢印を方向を見て描かれたものです。)
更新日 2011年07月20日